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入社初日、初めての友だち PAGE6

last update Last Updated: 2025-04-23 09:06:19

「――新入社員のみなさん。これから各部署によるオリエンテーションに入ります。配属された部署ごとに集合して下さい」

 ワチャワチャとお喋りできたのはここまで。人事部の人――でも部長さんではなかった――が、集合を呼びかけた。

 会場には、各部署の名前が書かれたプラカードを持った担当の社員さんたちがいる。そこに集まって、ということらしい。

 ここからがわたしたちの、本当の社会人デビューだ。オリエンテーションの後には、初仕事が待っている。

「おっと! もうそんな時間か。――んじゃ、オレ行くわ。昼メシは一緒に社食で食おうな!」

 入江くんはわたしと佳菜ちゃんにそう言って、さっさと〈総務課〉のプラカードを持った四十代半ばくらいの女性のところへ行ってしまった。

「あの人が、新しい総務課長さんみたいだね。――さてと、麻衣。あたしたちも行こっか。人事部は集まる場所一緒みたいだよ。秘書室も」

「うん」

 わたしと佳菜ちゃんは、一緒に〈人事部〉のプラカードのところまで行った。

 そこは小さないくつかのグループに分かれていて、多分人事部の中でも〈労務課〉とか〈秘書室〉とか、小さなセクションごとに集まるようになっているのだろう。

「――麻衣、あたしこっちみたいだから。入江くんじゃないけど、お昼一緒に食べよっ!」

「うん! 佳菜ちゃん、また後で!」

 ――秘書室に配属されたのは、わたしも入れて四人だった。そのうち一人は男子。彼はちょっと肩身が狭そうだ。

 やっぱり、秘書室はこの会社でも女性の比率が高いのだろうか……。

「新入社員のみなさん、秘書室へようこそ! ……なんちゃって。ちょっと絢乃会長のマネしてみました! ――私は社長秘書の小(お)川(がわ)夏(なつ)希(き)です。よろしく」

 秘書室の案内係は、このちょっとおちゃめなお姉さんだった。

 年齢三十歳前(アラサー)くらいかな? 肩にかかるくらいのセミロングヘアーに緩くウェーブがかかっていて、絢乃会長ほどではないけどキレイな人。わたしのフレッシャーズと同じようなビジネススーツをカッコよく着こなしているあたり、ちょっとオトナの余裕みたいなものを感じる。

 ふとステージの方を見れば、会長もスラッとした長身の男性に促されて退場されるところだった。男の人は二十代半ばくらいかな? まだ若くて(とはいってもわたしよりは絶対に年上だ)、優しそうな顔立ち
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     ――宮坂くんは入江くんと違って、大学からの同級生だった。彼は入学した時から、わたしのことをロックオンしていたらしい。 もっと可愛い子なんて他にもいっぱいいたのに、どうしてわたしみたいな地味で目立たない子がよかったんだろう? それは今でも不思議に思っている。 ……と、ここまではよくある一目ぼれだったのかもしれないけれど、宮坂くんの異常さはここからだ。 わたしは二年生の頃に一度、彼から告白されたけれど、ずっとハッキリとは返事をしていなかった。それにも関わらず、彼はわたしの彼氏になったつもりでしつこくつきまとってきたのだ。そのうえ、わたしと付き合ってもいない入江くんを目の敵にするようになった。 それ以来、彼はことあるごとにわたしのスマホに電話攻撃や大量のメールやショートメッセージを送りつけてくるようになり、それを無視すれば「どうして返事をくれないんだ」「どうして電話に出てくれないんだ」と所かまわず構ってちゃんになる。「俺たち付き合ってるのに」と。 入江くんにはこのことで何度も相談に乗ってもらったし、彼から何度も宮坂くんに「やめろ」と注意してもらったけれど、恋敵だと思い込んでいる相手の忠告なんて素直に聞き入れてもらえるわけもなく、彼のつきまとい行為はずっと続いている。 そしてとうとう、会社にまで乗り込んできた。こうなったらもう、迷惑を通り越して恐怖でさえある。両親にもこのことはまだ話していないので、どう対処していいのか分からなくて困っているのだ。「……わたしも悪かったんだと思います。告白された時に、ハッキリ『あなたとは付き合えない』って断ればよかったのに。ずっと返事を曖昧にしてたからこんなことに――」「矢神さん、それは違うんじゃない? このテの男は、たとえ断ってもしつこくつきまとってくるよ。私もこれまで色~んな男を見てきたから分かるんだけどさ。だから、『自分も悪い』なんて思っちゃダメ。あなたは悪くないから。ねっ?」「…………はい。ありがとうございます」「って言ったところで、警察に頼っても何もしてくれなさそうだし。どうしたもんかなぁ?」「そうですよね……」 こういう時、頼れる相手が少ないというのは困りものだ。とりあえず入江くんには話すつもりだけれど、やっぱり最終的には会長の力を借りるしかないのかな? あまりご迷惑をかけたくはないのだけれど……。「

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